001.Exceed Mach 1! #004

 持っていた方のウィッグをダンボールに戻しながら考えている間に、新たな懸案が浮上する。
「名前も必要じゃねぇのか? 正体隠すなら」
「ああ」
 ボンの指摘を受けて荷物を置いた克也が、ぽんと掌を打って俺を指差した。
「じゃあ、キョウシ」
「まんまだな」
 再び即座にツッコミを入れると同時に、マナー違反の手を軽くはたく。
「甘い」
 気にすることなくスマホを出して手書き入力をし、控え居ろうな印籠よろしく向けられたノートアプリには候補が三つ。

 A“狂志”
 B“凶使”
 C“恐屍”

 読みは“教師”と同じなのに、組み合わせ次第でこうも変わろうとは。
 ウィッグの雰囲気には合っていても、俺にはダーク過ぎる。
「う……。これは……、ちょっと……」
 とつとつと伝えれば、またしても指を差して提案された。
「なら、“ningen☆メトロノーム”」
「キョーシにしておく、ローマ字綴りで“kyoshi”」
 懲りない手を再度軽くはたいてから、三択プラス一を思い出して脱力した。
 それを他所に。
「保はそうだなぁ、“Mas-ken”とか」
「マスケンって、どこから来たの? それ」
 ウィッグを取ってテンションが戻っている保がきょとんとする。
「名曲喫茶“エリーゼ”のマスターで、聴いたことがある曲ならワンフレーズで検索できる特技を持っています。の略」
 待ってましたとばかりの克也の答えは、斜め上を行き過ぎだ。
「えっと、なんて言っていいのか」
「なんだよ、折角ひねってやったのに」
 困惑されたことに口を尖らせてから、「それじゃあストレートに……」と言葉を継ぐ。
「“パッシブ”!」
 あまりにも名は体を表すなネーミングだ。
「あああ、“Mas-ken”がいいな!」
 事実上一択だったらしい保からソファー側に面をやり、そこで改めてくつろいでいる男に意思を確認する。
「ボンはどうすんの」
「隠してないからそのままでいい」
 非常にクールで合理的。無駄なことには極力エネルギーを使わない。気付けば居心地のいい場所でだらけている。
 それでいて、こいつの座右の銘及びガソリンは“パッション”だ。
 ただし、聖域にあるそれを他人にいじられることを嫌う。
「ん〜、折角だから“パ”……」
「夜道がスリルに満ちたものになりそうだな」
 きつい顔立ちの目元に鋭い光が宿り、目力の強さを際立たせる。
「ゴメンナサイフザケスギマシタ」
 わかっていて遊んでいる感がある克也に視線を移す。
「お前は?」
「俺は、英語で“ポーク”だ」
 ふふんと笑い、謎の創作ポーズをとって聞いてきた。
「“Dr.(ドクター)Pork”とかかっこよくね?」
「ツッコミ待ちを前提に言うとして、お前のDr.はドラムの略だからな」
 期待に応える脇から、保の素の質問が続けざまに飛ぶ。
「それ以前に豚肉でいいの? ピッグじゃないの?」
「俺は豚肉をリスペクトしてるんだよ」
 克也は父親のとんかつ店で修行をしている。
 厨房とステージに立つ時の真剣な姿を思えば、口にされた理由に真っ直ぐな想いがこめられているのは感じられた。
 が、ボンが礼儀としてツッコミを入れる。
「尊敬してる奴をさくっと揚げて食うのか」
 熱いんだか寒いんだかなオチが多分ついたところで、俺達三人を見て克也が聞いてきた。
「あ、肝心なの忘れてた。バンド名どうするよ」
「“Garrote/R(ガロットアール)”」
 ふと胸に浮かんだそれを言葉にする。
「ガロットって?」
「絞首用の拷問器具だろ。座高計みたいなやつ」
 ボンに謎を解消されたはいいもののフリーズした保の肩に腕をもたせ、「Rは?」と克也。
「リアルのR。今回の再開とは無関係なところで、現実という名の鉄の首輪をねじで少しずつ締められて行くような……」
 薄く乾いた一笑ながらに返せば、一同に(うわぁ……)という顔をされる。
 それでも共感する部分はあったみたいで、バンド名は全会一致で決定した。
「けどまあ、お前らと組むことになるとは」
「違うバンドでやってたからな、ずっと」
 活動が最も活発だった当時は音楽性の相違も大きく、意外そうなボンと感慨深げな克也が言うように対バンを除き一緒にライブをやったことはなかった。
 周囲の友達も含めて仲が良くても、それぞれのメンバーが流動的な時期にあっても。

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