001.Exceed Mach 1! #005

 時間の流れや様々な経験の中で全員のジャンルの幅が広がった今なら、やりたいことをやりながらも上手くまとまって行けそうな気がする。
「箱と曲作りはいいとして、フライヤーか」
 顎に手を当てて唸った克也の提案により、かつてのバンド仲間で印刷物のデザインを担当していた共通の友人に頼むことにした。

 ――そして、廃墟系フロアのあるレンタル撮影スタジオの予約当日。

「って、どしたのそれ」
 現地集合で保と顔を合わせるなり、克也がぎょっとする。
「ドライアイ。昨夜目薬点さないで寝たら朝充血しててさ。まだ治んないんだよな、ごめん」
 遠目にもわかるほど赤くなり、ひどく痛々しい印象を与える左目を覗き込む。
「大丈夫なのか?」
「見た目はあれだけどね。他の異常や痛みはないよ」
 苦笑混じりに答える保に克也が尋ねる。
「片方だけってのもあるんだな」
「僕の場合は左の方が乾くみたい。ドラッグストアでこれ買ってきたんだ、右目は無事だから」
 言いながら、医療用の眼帯を取り出す。
「撮影の時はアイパッチで隠すつもりだけど、変かな」
「いんじゃね。その服には合いそうだし」
 明るい笑顔で肯定した克也の手が、俺の肩を楽しそうに叩く。
「お前も化けたじゃん」
「面の皮の厚みが増したよ」
 ステージによっては必要だったから慣れてはいたけど、ここまで濃い化粧は初めてだ。
 例の真っ赤なウィッグの効果もあり、本当に誰にも気付かれなさそうな気がしてくる。
 そこへ、撮影の為にステージメイクを施したボンもやってきた。
「あ、俺が最後か」
 真っ先に注目されたのは医療用のマスク。
「風邪?」
「花粉症? 秋の」
 克也と重なる形で聞けば、「各種流行ってるから予防」と返される。
 色付きのそれを興味深そうに見つめつつ、保が言う。
「ファッション用以外で紫って珍しいよね」
「白が売り切れてたんだよ」
 気に入って使っている同じシリーズの、色違いの中から選んだのがこれだったらしい。
 外そうとした指がマスクの紐にかけられたところで、克也が止めた。
「これで行こうぜ、画的にはまってるし」
「は?」
 訝しげに眉を寄せるボンに次ぎ、保、俺へと顔を動かし、腹を抱えて笑い出す。
「うはは、すげー厨二っぽい」
 実際には耽美さや病み属性をまったく持たない俺達が、そうしたヴィジュアルイメージを打ち出しているギャップがツボにはまったんだろう。
 事実、共通の友人でありメジャーで活躍している“Liaison(リエゾン)”のトーヤが同系統のことをしても素直に感心していただけだった。
 機材の準備は既にできていて、各自位置につくように指示される。
 ポーズを調整したところで、デザイナー兼カメラマン役の友達が声を出した。
「目線くださーい、なんてね。ほら、撮るぞ」
 一般人である俺達がこんな風にレンズを向けられる機会なんて滅多になく、不自然になり過ぎないように気を付けてはいてもそこかしこが強張る。

(なんか緊張してきた)
(あー、面倒くせぇ)
(真面目な顔してるのきっついよな。だめ、笑いそう)
 三人の考えていることが気配で伝わってきて、若干ではあるけど表情が引き攣る。
(早くも先行き不安になってきた)

 なんとも言えない雰囲気の中、シャッターが切られる音がスタジオ内に響く。

 後日談ながらこのフライヤーは思いの外好評を博し、バンドそのもののイメージとして定着することとなる。

- fin -

(初出:pixiv/2016-03-05)
(加筆修正:2020-09-01)
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INDEXExceed Mach 1!(シリーズ)
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