002.The sky goes away #008

 骨盤骨折及び左手首粉砕骨折。
 加えて、肩関節の脱臼と高所転落による全身打撲。
 怪我が治るだけでも二ヵ月。

(これでもう)

 ――しばらく歌わなくて済むし、重圧からも悶着からも開放される。


 カーテンで区切られた四床室の内、割り当てられたのは窓側のスペースだった。
 骨盤と左手首を創外固定しての絶対安静。
 骨折・脱臼部は当然のことながら、器具のせいで寝返りすら打てずに負担が増す腰の痛みも中々に辛い。
 仰向けたまま白い天井を見るだけの日々が続き、容態が落ち着いた頃にようやく省介と会えた。
 幾つもの太いピンを体外から骨に打ち込んだ姿は、さぞかし不憫だろう。
 ベッドの脇で沈痛な表情で佇む親友に真剣に謝る。
「ごめんな。久しぶりの再会がこんなで」
 普段からメールや電話で連絡は取ってたけど、お互いのスケジュールの関係もあって実際に会うことはできずにいた。
 嫌という程向き合ってる天井に目をやり、ぽつりと切り出す。
「事故の半年位前から心療内科にかかってたんだけど、もらってた抗不安薬を勝手にやめたのがまずかったみたいだな」
 急激な断薬が招いた離脱症状。
 そこへパニック障害のリバウンド現象が加わり、強く引き起こされた様々な不調や症状が転落事故へ繋がった。
「整形外科と精神科両方のスタッフが連携して、心身両面から治療をするって言ってた。――リエゾン精神医学だってさ」
 本当にもう。
 呪われてるんじゃないかって位、次から次へと。
「雰囲気だけでつけたバンド名だったけど、皮肉だよな」
「冬哉……」
 省介が言葉に詰まる。
 返却された所持品に含まれていた“Garrote/R”のライブDVDは、ケースにこそ大きな亀裂が入っていたものの無傷だった。
 少しの沈黙を挟み、ゆるく浮かべた笑顔を向け直す。
「解散するなよ。自由に歩けるようになったら今度は生で観に行くから」
「ああ。待ってる」
 見舞いに来てからというもの曇ったままだった顔に、少しだけど明るさが戻った。
 そのことも嬉しい。
「目標ができた」
 くしゃっと更に笑うと、褒め返しではなく言われる。
「冬哉。俺もまた、お前の歌が聴きたいよ」
 それに対しては、曖昧に笑む他ない。

 ――自分でも、どう答えていいのかわからなかった。
◆◆◆

009
☆☆☆
INDEXExceed Mach 1!(シリーズ)
Since/2011 Copyright (C) 天乃 球