003.さよなら、また明日 #005

 ファミレスで食事をしつつのミーティングで、“vapor⇔cone”三期の今後について提案をしたのは暁だった。
「方向性を変えた方が人気出るし、元々のカラーじゃないじゃん。俺達の」
 こいつが言う“元々”つまり一期のイメージは二期とは明らかに異なる。
 人気メジャーロックバンドの上澄みだけをすくったような、或いは人に好まれる部分だけをつぎはぎしたような歌。
 裏でどころか面と向かってさえ“劣化コピー”と揶揄されもした。
 “U”で支持を得られたのは、暁が抜けて路線変更を図れたから。
 カラーにしたところで“俺達”のじゃなく“お前の”だろうと毒づきたくなる。
 それでも、敵愾心を踏み付けて同意した。
「ま、それもそうだな。俺は暁の案でいいと思う」
「冬哉」
 コーヒーを飲みながら聞いていた悠斗が、やや乱暴にカップを置き食って掛かってくる。
「最近どうしたんだよ、暁の言いなりじゃねぇか」
 肩をひょいと上げ、暖簾に腕押しな態度で答えた。
「揉め事はもうたくさんなんですー。それに、目的の為には妥協も必要だろ」
「だってよ。物分りのいいバンマスで助かるわ」
 チーズケーキを口に運ぶ傍らから、調子よく言ってくる暁にトレーニングで培った笑顔を向けた。
「俺も、お前がバンマスのままでいさせてくれてありがたいと思ってるよ。作曲を任せてもらえたことも」
 バレにくいところからバレにくい形で持ってきてるつもりの、聞く奴が聞けば元歌もアーティストも丸わかりなレベルのインチキソング。
 アレンジで誤魔化しをはかった“舐め切った自称オリジナル曲”は、こいつ好みの華やかでキャッチーかつドラムの見せ所満載の歌と引き換えに全て破棄させた。
(パクリ野郎の片棒なんか担がされてたまるか)
 柔らかな表情を保ったまま、奥では口汚くののしる。
「長いものに巻かれるのも生き方か」
 グラスの氷をストローでがしがしと突く手を止めた吉良が、アイスコーヒーを飲んでからため息をついた。
「なに言ってんだよ、お前まで!」
「先がわからないほどアホじゃないってこと」
 飄々と返してはいるものの、時期がきたらこいつは“巻き付かせた長いもの”を引きちぎるだろう。
 察しのよさと腹への収め方は友達一だ。
 “vapor⇔coneU”と相反するやり方を受け入れる俺達に苛立つ悠斗と、思い通りにことを運べて勝ち誇ったような暁をよそにへらりと笑う。
「だよなー」
 そこでフォークを置き、「それはそうとして」とパート譜の束を取り出した。
「はい、新曲の楽譜ー」
「やだびっくり。お前、本当に書けるようになったのね」
 ベースのタブ譜をざっと確認し、茶化してくる吉良に胸を張って見せる。
「できる子だもん。目標さえあれば」
 口を引き結んでギター譜を目で追っていた悠斗が、紙を送る手を止め、ひどく驚いた様子で顔を上げた。
「冬哉、これ」
 計画の実現の為には、残った“vapor⇔coneU”のメンバーに抜けられる訳には行かない。
 今日の展開は読めてたから、悠斗と吉良の分には俺の真意をこめた歌を加えておいた。
 パートごとに分けて渡せる、各楽譜の書き方を教えてくれた省介には感謝するばかりだ。

 ――もっともあいつは、こんな使い方をされるなんて思っちゃいなかっただろうけど。

「いい歌だろ、特に“最後の奴”」
「ああ」
 暁の要望に合わせてキャッチーな曲で固めた中にあって、唯一悠斗の関心を惹くだろう歌。
 アコースティックギターの弾き語りスコアの歌詞を食い入るように見るその隣、珍しく真剣な表情を譜面に向けていた吉良がにやりと視線を上げた。
 二人に添えた楽譜を欠くことから、通常ライブの盛り上げ用に書いた曲を“最後の奴”だと思っている暁が、根拠のない成功イメージで上機嫌になりながら口を挟んでくる。
「ほんと、これ人気出そうだよな。ノリいいし」
 “必要とされる演奏スキル”にターゲットをミスリードしつつ、コーヒーカップを手に悠斗に言う。
「ちょっと難しいけどな」
「けど、やる気出た。お前がこれをちゃんと歌えるように頑張るわ」
 思いは楽譜と共に受け止められ、心を決めたように不敵な笑みで告げられた。
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INDEXExceed Mach 1!(シリーズ)
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