003.さよなら、また明日 #008
必要項目を埋めて完成させたセットリストは、未演奏曲のデモCDや他の書類と合わせて“Vortex of sounds”に提出した。
PAの篠崎さんに無理目の要望を快く聞いてもらえたのは、“vapor⇔coneU”のことがあったからだろう。
失敗したら終わりの一発勝負。
次回ライブでの決行が確定したプランを抜かりなく進めて行く。
もう一つ、しておかなきゃいけないことがあった。
当日、省介を“Vortex of sounds”に呼ぶこと。
“vapor⇔coneU”脱退後は宣言通り勉強に本腰を入れているあいつとのやりとりは、メールやSNSによるものがほとんどだ。
だからと言って、関係性に変わりがある訳じゃない。
電話に出た省介に、実際に会っていたら土下座する勢いでまずは謝る。
「受験が近付いてる時期に申し訳ない!」
「いいよ。なにかあったのか?」
こいつが俺を心配しているという話は、同じ高校に通ってる吉良から聞いていた。
問い掛けてくる声が明るさを欠くのは、さっき送ったメールの用件がネガティブなものではないかと案じているせいかもしれない。
“大事な話があるから後で電話する”
そう打ったのは相談の為じゃなく、頼み込んででも取り付けたい約束があったから。
「うん。っていうか、これからある」
(これから……?)
そんな風に首をひねって考えているだろう省介に、真剣な口調で持ち掛ける。
「次のライブ、都合をつけられる限り来てもらえないか? 無理を承知でだけど」
「珍しいな、お前がそういうこと言うの」
強めに誘うことはしてこなかっただけに、軽くながらも驚かれた。
「それくらい特別なんだよ。聴かせたい歌があるんだ、お前に」
大事な時期に邪魔しちゃいけないってわかってるけど、省介がその場にいなきゃ“計画達成”はできても“本当の願い”を叶えることはできない。
「俺に?」
「そ」
少し考えてから、省介が聞いてくる。
「ライブって、メールで送ってもらった奴だよな」
「うん」
平成を装いつつもひどく緊張して返事を待つ俺の様子を察したように、「わかった」と穏やかに返された。
「ごめん、ありがとな」
「ああ、楽しみにしてる」
嘘のない態度で返され、心の底からほっとする。
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