005.箱庭が壊れた日 #004

 骨盤を外からピンで固定して、骨癒合まで絶対安静で八週間。
 入院期間は機能回復のリハビリ期も含めて四ヶ月と少しになるらしいと、冬哉の従姉であるナツキさんから教えられた。
 パニック障害(広場恐怖を伴わないタイプものらしい)で心療内科に通院していたことや、処方薬の離脱症状のことも。
 アーティストとして恵まれた感受性の鋭さは、何事も真っ向から受け止める真面目さや強過ぎる責任感と合わさることで、自制心から押し込めた心を突き刺す凶器と化した。

 鉄の処女さながらに。

 “Liaison”の“トーヤ”という空洞の人形に閉じ込められ、急所を外して貫く多数の針に苛まれる“冬哉”の悲鳴は誰の耳にも届かなかった。

 事故で負った怪我の容態がある程度落ち着き、病院側から面会許可が下りる。
 メンバー全員で見舞った冬哉は創外固定器の装着により寝返りも打てない状態で、グラスアイのような瞳はただぼんやりと天井を眺めていた。
「冬哉」
 ベッドの脇に立って呼び掛ければ、焦点の合わない目が俺を見る。
「楽屋でひどいこと言って、ごめん」
 ゆっくりと息を吐き出すように言ってから、項垂れて言葉を継いだ。
「事故前の電話で、ちゃんと謝れてたら……」
 声にすれば改めて後悔の念が押し寄せてきて、溢れ出した涙が床を打つ。
「……ごめん……」
 嗚咽混じりに声を絞り出す俺の背中を、誰かの掌が慰めるように叩いた。
 虚ろな眼差しを向けていた冬哉が、力なく口を開く。
「悪い……。まだ、無理みてぇ……、お前と話すの」
「え」
 みっともない泣き顔を上げると、悔しさと心苦しさの滲む表情で告げられた。
「わかって、るのに、お前の気持ち。――けど、ついてかねぇ」
「――!」
 静かながらもはっきりと拒絶され、事故前最後に会った日に目にした姿がフラッシュバックする。
 今の俺は、あの時の冬哉と同じ表情をしているんだろう。

 ――ショックと絶望感がないまぜになった顔を。

 まだなにか言いたげな冬哉に休むように促し病室を出る悠斗を、人見に連れられる形で追う。

 “Liaison”決裂のきっかけを作ったのは俺だ。
 冬哉を今になって自分のものとしてわかるこんな気持ちにさせたのも。
 謝罪を受け入れてもらえなかったのは因果応報だし、すがりつく権利も資格もない。
 願いが叶わなかったからといって傷付くのは――。
(冬哉にかこつけて、俺自身が救われたかったってことか)
 この期に及んでも我が身可愛さの自分に対し、言いようのない怒りと情けなさがこみ上げてくる。

 少し時間を置き、改めて見舞いに行った悠斗を通して聞かされたのは、冬哉の“Liaison”脱退の意思だった。
◆◆◆

005
☆☆☆
INDEXExceed Mach 1!(シリーズ)
Since/2011 Copyright (C) 天乃 球