005.箱庭が壊れた日 #005

 事務所とレコード会社から正式に発表された、“Liaison”の無期限活動休止。
 今後のことはなにもかもが白紙だ。
 本来であればレコーディングに入っていた今、全てを保留にしたまま自宅で鬱々と過ごす。
 冬哉と悠斗がオフ期間に数多く形にしていた曲はプロデューサーに渡ることなく、俺が転送する予定だったデータにしても手元に残ったまま。
 飛び降り疑惑やバンドの不仲説で当初は騒がれたものの、冬哉の落下原因が事故であると結論付けられたことによりマスコミの興味は他に移った。
 けど、中途半端に本心を知ってしまっただけに俺の気持ちはそうも行かない。
 べースの師匠であり、“vapor⇔cone”時代からの冬哉の盟友にして悪友でもある吉良さんが訪ねてきたのはそんな頃のこと。
 見せられたのは、事故が起きた都市公園へ行く前にライブハウス“Vortex of sounds”で撮られた冬哉の動画だった。
 画面の中、子供みたいにきらきらした目で“Garrote/R”のライブ映像に張り付いていた冬哉が感情のままに声を上げる。
『あーっ! 生で観たかった! この場にいたかった!』
 と、睨み付けるような視線がハンディカメラに向けられる。
『なに? 勝手に撮られたら困るんだけど』
 撮影を遮るべくレンズに手をかざしての、わざとらしいまでに冷ややかな対応はすぐに堪え切れない笑いに変わる。
『久しぶりだな、吉良』
『おう』
 満面の笑みを湛えた冬哉と同じく、再会を喜ぶ吉良さんの声で動画は終わった。
 沈黙を挟み、静かに言われる。
「動画を見りゃわかるだろ。あいつが落ちたのは事故だ」
 直前にこんな笑顔を見せていた冬哉が、屋外展望台の最上段から身を投げるとは思えない。
 そのことに救われる一方でもう一つの事実が重くのしかかった。
「冬哉のこんな顔、ずっと見てなかった」
「は?」
「あいつ、“Liaison”を脱退するって」
 予想外の方向に話を飛ばされ訝しげな顔をした吉良さんに、例の件を打ち明ける。
「俺を嫌ってその選択になったってんなら――、抜けなきゃいけないのは冬哉じゃない」
「他のメンバーが変わっても“Liaison”なんだし、か」
 オフに入る前の言葉を引き合いに出し、呆れたようにため息をつかれた。
「前に悠斗から聞いたわ。ほんと馬鹿だな。お前が代わりにやめて大団円になるのか? 看板が抜けたとして、迎えた後任と上手く長くやってるバンドだってあるだろ」
 厳しい言葉に普段ならへこむところだけど、引くことなく言い返す。
「だとしても、“Liaison”の顔は冬哉以外に考えられない」
「まー、イメージ強いからな。あいつの」
 真面目な顔で少し考えてから、吉良さんが真剣な表情で続ける。
「“Liaison”を続ける以上、冬哉は“トーヤ”でいなきゃならない。だったらもう、開放してやってもいいんじゃねぇか?」
 あいつにとってそれがどれほど苦しいことかわかるだけに口をつぐめば、「なんてな」といつものように冗談めかされた。
「冬哉が脱退がどうとかって言ったのは、お前らのこと考えたからだろ」
「え」
「“Liaison”を残しておけば、新ボーカルを入れることで即活動に入れる。立て直すにせよ新しい道を考えるにせよ、落ち着いてやれるだろ」
 はっとさせられた。
「まあ、“Liaison”がなくなったとしてもお前らなら需要もあるし、収入面だけで言えば著作権印税もあるから大丈夫っちゃ大丈夫だろうけどな。今のバンドにこだわらなきゃ」
 吉良さんの言う“冬哉なりの気遣い”だとしても、ここしばらくの“Liaison”の険悪な雰囲気を考えれば不安の方が強い。
「……無理だ。メンバーにしても、冬哉なしでまとまる気がしない」
「ぁあ?」
 眉間に皺を寄せて説明を求められ、心に影を落としていた言葉を吐き出す。
「言われたんだ、悠斗に。“じゃあ、もうやめろよ。曲に限らず、脱退するって言っても俺は止めねーから”って」
「自分の意思でまだ踏ん張れる奴だって信頼の証だろ」
 さもなんでもなく返され、釈然とせずに口をつぐむ。
 項垂れて少し間を置き、ふて気味に言い添えた。
「“清々するな。ツアーもようやく終わって、しばらく顔合わせなくていいと思うと”とも」
「自分の頭を冷やして仕切り直したかったんじゃねぇの?」
 思い過ごしだろと言わんばかりの態度に恨めしい目を向けていると、やれやれと肩を上げた吉良さんからデコピンを食らった。
「てっ」
「お前が大事にしてるものはどうにかしようもあるだろ。“まだ”無理って言われたんなら、その内わかるようになってから冬哉と話し直せ」
 堂々巡りを断ち切るように、冷ややかに突き放される。
「お前じゃない誰かが“Liaison”のメンバーとしてあいつらとバンドやってるのを、心から応援できないならな」
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